南インド、猫と旅すると。

猫を連れて四十日もの旅に出るに際して、
もっとも心配だったのは、十六歳の老猫である春ちゃんが、
苦手な車移動で消耗して体調を壊さないかどうか、ということだった。
「ペットOKの宿が見つかるか」という問題を二の次に考えていたのは、
この旅に出る前、二度の猫連れ小旅行に出かけ、何の支障もなかったからだ。
今日は、現時点まで八カ所のホテルの経験を通して、
南インドのホテルでのペット受け入れ事情を書いておきたい。

一泊目、マハーラーシュトラ州のカラードという町、
街道沿いのビジネスホテル風 Hotel Mahendra に、
夜十時近くにヨレヨレになって到着した。
猫を持ち込もうとした私に「えっ……」という反応を見せたフロント男性。
すかさず「トイレは必ず自分のトイレにするし、部屋を決して汚さず、
部屋の中だけで大人しくしています」と畳みかけると、
黙って通してくれた。

二・三泊目、カルナータカ州バダーミー、The Heritage Resort。
長距離移動に疲れ、猫バッグの中でぎゃーぎゃー騒ぐ春ちゃんだったが
おぉ猫がいるんですか、ぐらいの反応。
部屋に案内してもらってすぐに春ちゃんを部屋に放すと、
「まーまー、キレイな猫さんですなぁ」と褒めてくれた。

次の目的地はハンピ。
行き当たりばったりに入った安宿 Ranjana Guest House、
猫がいるというとちょっと考えるふうだったが、
ここも一言の説得で簡単に了承してくれた。

一泊だけしたシモガは、住みやすそうな落ち着いた小さな街。
飛び込みで入ったビジネスホテル Green View はしかし、
五分ぐらいかけて説得しないと落ちなかった。
荷物も何もすべて運び込んでしまってからの交渉だったので、
断り切れないところがあったのかもしれない、
結局は泊めてもらえることになった。

ムルデーシュワラの Mavalli Beach Heritage では、
ゴンさんと楽しく遊んだクリシュナとアルジュン兄弟のお母さん、
ラージェーシュリーが出迎えてくれた。
まず「猫がいます」というと、あらぁ素敵、ぐらいの反応で、
ただ犬を飼ってるので外には出さないでねぇ、とのことだった。
滞在中、シモガのホテルで断られそうになったことを話すと、
「飛行機だって乗っていいんでしょ? それでなんでホテルがダメなのよ」
と、そう言われたらまったくその通りなような、
それとこれとはだいぶ違う話なようなことを言っていた。

Mavalli Beach Resort 部屋ベランダから海を眺める。

Mavalli Beach Resort 部屋ベランダから海を眺める。

初めて困難を感じたのは、急遽 泊まることになった小都市、
マンガロールでの宿泊だった。
ムルデーシュワラを出るのが遅くなり、予定していた場所に
日暮れまでには到底たどり着けそうもなくなってしまったため、
途中のマンガロールに泊まることにしたのだ。
車中 iPad を使い、良さそうなホテルを選んで行ってみたのだが、
Saffron という安めのビジネスホテルふうのところでは、
まず私一人が行って部屋を見せてもらったあと、
荷物を運び入れる前に、猫がいる旨フロントおじさんに言ってみた。
すると途端に、ピッとおじさんの雰囲気が変わったのだ。
「ペットは絶対にダメです。禁止です」
いつもの説得もまったく功を奏さない。
「もし毛でも残ったら後から来たお客様にご迷惑がかかります」
というような四角四面なことを、
目に鋭い光をたたえながら平気で言ってのけるのだ。
こりゃあダメだ、と車に取って返し、次のホテルを探す。

次はもうちょっとグレードアップして、三ツ星半という
半端な格付けをされている Goldfinch というホテルへ。
柑橘系アロマの香り漂うフロントには、スーツを着込んだ若い男性がおり、
やはり「ペットはお断りしております」と言う。
いつもの説得をしても「部屋を汚す汚さないの問題ではなく、
規則は規則ですので」的な無能なことを言う。
「じゃあどこへ行けって言うのさ!」と無茶な発言を私がし出した頃、
隣で聞いていた年配の女性スタッフが助言してくれたらしく、
電話で上司に連絡し出した男性スタッフは、やがて
「こちらにかけてお待ちください」とソファを勧めてどこかへ消えた。
車では二人と一匹が私が朗報を持って帰ってくるのを待っているはずで、
そんなゆっくり座って待つ気には全然ならず、
立ったまま待っていたが、なんだか全然 戻ってこない。
こんなに待った挙句ダメって言われたらどう怒ればいいんだ、
と考えあぐねていると、上司らしき別の背広マンが来た。
座って話していると、彼はとにかく、
ホテルの部屋から外に出さないでくれということ、
特にレストランに連れて行かないでくれということを何度も強調し、
「チェックアウト時に猫が部屋に傷などつけていないかを
確認させていただきたいので、少々お時間をいただきます」
と言い置いたうえで、とうとう宿泊を認めてくれた。
このホテルは高かっただけにけっこう快適だったが、
チェックアウト時の部屋損傷の確認には少々 気を遣った。
こんな時に限って、ゴンさんが油性ペンでシーツを汚したり、
調度品のちょっとした部品を外してしまったり、
春ちゃんまでが木の窓枠でちょっと爪を研いだりした。
しかし翌朝のチェックアウト時に前日のスタッフはおらず、
引き継ぎ連絡も行っていないのであろう、
チェックアウト時に部屋に来たボーイさんは、
冷蔵庫の中身だけを確認して去っていった。

次は州が変わってケーララはカッパドという、
ヴァスコ・ダ・ガマ所縁の海辺にある、
Vasco Da Gama Beach Resort というところに来てみた。
陽もとっぷり暮れてしまい、真っ暗なジャングル(のような住宅街)の
どんづまりに車を突っ込んで、にっちもさっちもいかなくなったりを経て、
這々の体でたどり着いた我々には「うちには猫6匹いますよ」という
ちょっと自慢げな言葉が何よりの歓待だった。

最後はいま滞在しているコーチン。
静かな住宅街の大半の家がゲストハウスをやっているのではないか、
と思えるほどゲストハウスの多いフォート地区。
ビジネスホテルではないものの、シモガ、マンガロールでの経験から、
都市部のホテルは堅いことを言いがちである、という傾向をつかんだため、
あらかじめ TripAdvisor サイトで、ペット受け入れ可のホテルを探し、
そのひとつであった Vintage Inn という宿に予約を入れた。
猫を連れて入っても何も言われなかったことも当然だと思ったが、
翌朝に Satyanamak がチェックインの書類を記入に行った際、
「猫をお連れだと伺いましたが、部屋を汚したりはしないですね?」
と言われたそうだ。そしてさらに今日、お勘定をしていた時に、
TripAdvisor の「ペット受入可」という記述は誤情報だということが判った。
それなのに泊めてくれたのはインド人固有の歓待精神の成せる技だろうか。

明日は Kollam というバックウォーター沿いの宿へ移る。
さて、どう迎えられるでしょうか、お春さんご一行様。

シモガからムルデーシュワラに向かって疾走中。

シモガからムルデーシュワラに向かって疾走中。

6 Responses

  1. みみ 2014年8月28日 at 6:30 PM | | Reply

    猫の連れての旅、大変なこともあるだろうけど、離れて心配しているよりはいいよね。
    春ちゃんが居ることで、思いがけずうれしい反応だってあるはず。
    融通のきくインドならではの、味のある旅を続けてください。
    春ちゃんの写真、旦那も喜んで見ています。

  2. ななこさん 2014年8月30日 at 7:56 AM | | Reply

    いろいろ大変なこともあるようだけれど、春ちゃん皆と一緒で良かったね!
    車の中からじっと外を見ている春ちゃんの写真を見て、しみじみ連れて行ってあげて良かったねと思います。家族だものね、一人(一匹?)でお留守番は寂しいもの・・・
    日本でも「ペット可」の場所が増えているようだけれど、これからの旅行でも春ちゃんを受け入れてくれるホテルが多いことを祈っています。
    これからも健康で、安全で、楽しい旅でありますように!!

    1. motiDD 2014年8月31日 at 9:31 AM | | Reply

      そう言っていただけると嬉しいです! 車は相変わらず苦手で、我慢ならなくてわーわー鳴くのですが、それでも休憩を取ってちょっと春ちゃんにも外をお散歩してもらうと、気分が落ち着くのか、そのあとは車に乗ってもしばらく静かにしていてくれます。ここではまだペットブームが来て年が浅いので、「ペット可」という考え方自体があまりないのですが、そもそもお客に対して「No」を言うのが嫌いな国民性というか文化があるためか、鷹揚に受け入れてくれるところが多く有難いです。もうすぐ折り返し地点、健康第一で帰ります!

  3. も鹿 2014年8月30日 at 1:31 PM | | Reply

    ペット事情の詳細交渉模様に読み応えあり!でございました~。
    毎晩のように、チェックインの際はどきどき交換しているんですね、お疲れ様です。
    とはいえ、旅の味付けになってもいるような猫どんのプレザンス、春どん、行っちゃれ!
    真塩旦那様は運転もお疲れのようですが、風を切って冒険していますねぇ。
    どうぞ道中ご無事で。

    1. motiDD 2014年8月31日 at 11:20 AM | | Reply

      追い風をありがとうございます〜。本当に、春さんがベッドにのんびり寝そべってる部屋に戻るとホッとするし、うれしいのです。でも猫連れの印象を悪くして後進の邪魔になってはいけない、と気を使うあまり、某五歳児さんがお布団に地図を書かれた朝、シーツを変えに来たクリーニング担当お姉さんに「猫じゃなくて、この坊がやったのです」とわざわざ強調してた自分が変でした。今日はいよいよ最南端に移動です!

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